こんにちは、健康マスター・普及認定講師のうりさくらです!

人生100年時代、90歳以上の方の「2人に1人」が認知症と言われています。(※1)

もはや誰もがかかる可能性がある病気と言えるかもしれません。

認知症についての研究が進む中、その前段階であるMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という状態が注目されています。

実は、MCIは認知症へ移行する可能性がある一方、健常な状態へ戻る人もいます。

だからこそ、早い段階で変化に気づき、適切な対応につなげることが大切です。

そこでこの認知症シリーズでは、認知症予防の考え方から、具体的な「守りの対策(リスク管理)」と「攻めの習慣」までを3回に分けてご紹介します。

本記事は、認知症シリーズの第3回、認知症予防のための「脳と心を育てる4つの習慣」についてのお話です。

この記事でわかること

  • 医学的な予防の考え方
  • 予防に役立つ「防御因子」とは
  • 暮らしに取り入れる具体例

認知症予防のために、あれもこれもとリスクを減らすことばかり考えていては、疲れてしまいますよね。

健康を守ることはもっと前向きで、楽しいはず。

いつまでも自分らしく輝くために、日々の暮らしの中に「脳がよろこぶワクワク」を増やしていきませんか?

その具体的なヒントをご紹介します。

危険因子だけじゃない!認知症予防の考え方

誰もが認知症にはなりたくないものですが、長寿化が進む現代において、認知症は誰にとっても避けて通れない身近な課題となってきました。

出典:厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」より引用(※1)

グラフが示す通り、80歳を過ぎると有病率は急上昇し、90歳以上では2人に1人が認知症と推計されています。

『認知症は誰もがなり得る』という認識のもと、国が推進する認知症施策においても、予防の目的は「認知症に絶対ならないこと」ではなく、「認知症になるのを遅らせる・認知症の進行を緩やかにすること」としています。(※2)

では、どのようにして発症を遅らせ、進行を緩やかにすることができるのでしょうか。

認知症の予防を考える際には、認知機能の低下を加速させる「危険因子」と、進行を遅らせる「防御因子」という2つの側面に注目することが大切です。

この図のように、日々の暮らしの中で「危険因子」を最小限に抑え、脳をいきいきと保つ「緩和因子(防御因子)」を意識的に強化していくこと。

これが、これからの時代にふさわしい、前向きな認知症予防の取り組みといえます。

危険因子については認知症シリーズ第2回で詳しくお話ししました。ここからは、防御因子について見てみましょう。

認知症予防に欠かせない「防御因子」とは?

『認知症疾患診療ガイドライン2017』では、防御因子として「適度な運動」「食事因子」「余暇活動」「社会的参加」「精神活動」「認知訓練」などが挙げられています。(※4)

これらの要素は実生活において重なり合う部分が多く、明確に区別しにくい側面があります。

例えば、楽器の演奏や絵画、書道、読書などは、単なる趣味(余暇)であると同時に、脳に新しい刺激を与えるトレーニング(認知訓練)であり、脳が営む精神活動でもあります。

そこで今回は、こうした防御因子を、皆さんが日々の暮らしの中で楽しく取り入れられるよう、以下の4つの『脳と心を育てる習慣』として整理してみました。

ここからは、認知症リスクの低下や認知機能の維持に役立つことが報告されている活動を、4つの項目に分けて見ていきましょう。

近年の研究により、運動は単なる身体の健康維持にとどまらず、認知機能の維持・向上にも役立つことが分かってきました。

運動を行うと、記憶を司る海馬や、高度な精神活動を担う大脳皮質において、「BDNF(脳由来神経栄養因子)」というタンパク質が増加することが報告されています。

このBDNFには、新しい神経細胞の誕生を促す「神経新生」をはじめ、情報伝達を担うネットワークを強化する働きや、神経細胞を守る「神経保護」の作用があり、脳の容積増大や認知機能の維持・向上に貢献していると考えられているのです。(※5)

さらに運動は、うつ症状の軽減や睡眠の質の向上といった心身への直接的な恩恵だけでなく、人との交流を通じて脳に新たな刺激をもたらす側面も持っています。

国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」より引用(※6)

これらの多面的な効果が複雑に絡み合い、互いに高め合うことで、認知機能の維持・向上につながると考えられています。

実際に、認知機能と運動習慣の関連を調べた研究結果を見てみましょう。

出典:国立長寿医療研究センター「日常的な活動と認知症予防」より引用(※7)
(原典Larson EB, et al. Ann Intern Med. 2006;144(2):73–81.)(※8)

認知機能に問題のない高齢者を追跡調査したところ、週3回以上運動していた人は、週3回未満の人に比べて、その後に認知症になった割合が38%少ないという結果でした。

運動の頻度に関しては、週3回以上がより効果的とされています。(※9)

また、高齢者を対象とした調査でも、定期的な運動(週3回・合計2時間以上)をしていた人は、認知症になるリスクが低いという結果でした。(※6)

「週2時間以上」はハードルが高そうですが、例えば「ウォーキングを1日計30分、週4日以上」でも達成できます。これなら、今日からでも生活に取り入れられそうですね。

運動の種類としては、ジョギングや水泳などの有酸素運動や筋力トレーニング、柔軟運動などの組み合わせが効果があるとされています。

中でも、効果的な運動として、国立長寿医療研究センターが開発したコグニサイズが有名です。

コグニサイズとは、認知(Cognition:コグニション)と運動(Exercise:エクササイズ)を同時に行う運動です。

軽く息が弾む程度の運動をしながら、「引き算をする」「数を数える」「しりとりをする」など頭を使いながら行います。

詳しくは、国立長寿医療研究センターの冊子「コグニサイズ」(※10)で紹介してあります。

自治体などでコグニサイズを取り入れた教室が行われている場合もあります。興味のある方は、一度お住まいの自治体に問い合わせてみましょう。

国立長寿医療研究センターでは老化に関して長期間にわたる追跡調査を行っています。(長期縦断疫学調査:NILS-LSA)

食事・栄養と認知症予防の関連を調べた結果、食べる食品の種類が多いほど、認知機能の低下が抑えられることが示されました。

出典:国立長寿医療研究センター「食事と認知機能(4)」より引用(※11)
(図の原典:Otsuka R, et al. Geriatr Gerontol Int. 2017;17(6):937–944.)(※12)

グラフが示す通り、食品摂取の多様性が最も高いグループでは、最も低いグループに比べて、認知機能低下のしやすさが44%低いという結果でした。

なぜ食品の種類の多さが認知機能に影響するのでしょうか。

実際のデータを詳しく調べたところ、多くの種類の食品を食べている人は、タンパク質や脂質、ビタミン類、微量栄養素といったさまざまな栄養素の摂取量が多いことがわかりました。

複数の栄養素が相互に作用することが、脳機能の維持にプラスに働くと考えられます。

また、多様な食材を用いた食事を作るには、献立を考え、食材を買い出し、調理するなど脳と身体を総合的に働かせなければなりません。

こうした食事の準備そのものが、脳や身体を使う機会になっている可能性も考えられています。(※11)

その他の研究でも、認知症の予防には、何か一つの食品に効果を求めるのではなく、バランスよくさまざまな食品を摂取することが有効であることが示されています。

出典:全国発酵乳乳酸菌飲料協会乳酸菌ニュースNo.527「認知症の予防に役立つ食生活」より引用(※13)

バランスの良い食事が認知症のリスクを抑える一方で、「炭水化物中心の高カロリー食・低タンパク食・低脂肪食」など偏った食事は、リスクを高める傾向にあります。(※4)特定のものに偏らず、多様な栄養素を摂取するよう心がけましょう。

バランスの良い食事が認知症のリスク低下に寄与するという点は世界的な共通見解ですが、特定の食品や栄養素の効果については、研究ごとに結果がわかれています。

果物・野菜や魚類の摂取がリスク低下に関連するという報告がある一方で、全ての研究で一貫した結果が得られているわけではないのです。

他にも、ナッツ、オリーブオイル、コーヒー、緑茶などがリスクを下げる可能性があるとして多くの研究で注目されています。(※4)

WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、特定の栄養素だけを補うよりも、多種多様な食品を組み合わせた食事のほうが、認知機能の改善につながる可能性が高いとしています。

また、栄養不足のない人が認知症予防を目的に、ビタミンB・Eや多価不飽和脂肪酸などのサプリメントを摂取することは推奨されていません。(※14)

野菜の中には、旬の時期に特定の栄養成分が多くなるものもあります。(※15)

四季折々の食材が食卓を彩ることは日本ならではの魅力です。旬の恵みをバランスよく味わいながら、楽しみながら認知症予防を始めていきましょう。

『認知症診療ガイドライン』では、認知症予防に有効と考えられる余暇活動として、頭を使う「知的要素」、身体を動かす「身体的要素」、人と交流を持つ「社会的要素」という3つの要素を挙げています。

  • 知的要素
    読書、ゲーム、囲碁、楽器演奏、映画・演劇鑑賞など
  • 身体的要素
    スポーツ、散歩、エアロビクスなど
  • 社会的要素
    ボランティア活動、旅行、友人に会うなど

認知機能に問題のない高齢者を追跡調査したところ、知的活動をよくする人(週2回以上)は、ほとんどしない人に比べ、認知症の発症リスクが低下することがわかりました。

出典:国立長寿医療研究センター「日常的な活動と認知症予防」より引用(※7)
(図の原典:Verghese J, et al. N Engl J Med. 2003;348(25):2508–2516.)(※16)

これらの活動を、いかに多く日常生活に取り入れることができるかが、認知症の予防のための重要なポイントとなります。

読書や楽器演奏、ボードゲームのほか、パズル、合唱、ダンス、書道などが認知機能を改善する可能性があるとされています。

ただし、無理は禁物です。認知機能に良いとされる活動でも、本人にとって負担が大きすぎたり、周囲から参加を強いられたりするのは逆効果とされています。

何よりも、ご自身が興味を持ち、心から楽しめることを選ぶのが一番です。

また、専門機関による認知トレーニングについては、継続して取り組むことで記憶機能の改善に役立つとされています。

一方で、市販の脳トレーニングゲームに関しては、一時的に認知機能改善に効果的なものもありますが、長期的な認知症予防につながるかどうかについては、現時点ではまだ明らかになっていません。(※6)

脳トレーニングゲームは認知症予防を目的にするというより、娯楽としてあるいは補助的な役割として楽しむのが良いでしょう。

人との交流が減り、社会的に孤立してしまうと、外出する機会も少なくなり、「運動不足」や「うつ」といったほかの認知症リスクも重なりやすくなります。

だからこそ、日頃から人とのつながりを保つことが大切です。

実際に、認知機能に問題のない高齢者を追跡した研究では、家族や友人と会ったり連絡を取ったりする頻度の高い人ほど、その後の認知症発症が少ないことが報告されています。

出典:国立長寿医療研究センター「日常的な活動と認知症予防」より引用(※7)
(図の原典:Crooks VC, et al. Am J Public Health. 2008;98(7):1221–1227.)(※17)

このグラフでは、毎日家族や友人と会ったり連絡を取ったりする人は、週1回未満の人と比べて、その後に認知症になった割合が43%少ないという結果でした。

人との交流には、会話そのものにも脳を働かせる要素があります。

私たちは会話をするとき、相手の言葉を聞いて意味を理解し、何を答えるかを考え、それを言葉にして伝えています。普段何気なくしているおしゃべりも、実は脳のさまざまな働きを使っているのです。(※18)

直接会うことだけが人とのつながりではありません。電話やメールなど、自分に合った方法で身近な人との交流を楽しむこともできます。

まずは家族や友人とのおしゃべりや、地域のイベント、趣味の集まりなど、ご自身が楽しめることから人とふれ合う機会を大切にしてみませんか。

日々のつながりが、健やかな脳を支える力になります。

まとめ

90歳以上の2人に1人が認知症と言われ、超高齢社会の現代では誰もがなり得る病気と考えられています。

しかし、認知症を過度に怖がって時間を無駄使いするのはやめましょう。

大切なのは、自分らしく過ごせる時間を、一日でも長く積み重ねていくことです。

認知症予防に、特別な準備や我慢は必要ありません。

まずは日々の暮らしの中で、「楽しい」と思えることを少しずつ増やしていきませんか?

散歩で心地よい風を感じたり、旬の食材で美味しい食事を楽しんだり。無理のない範囲で、小さな一歩から始めてみましょう。

認知症予防の鍵は、頭を鍛えることだけではありません。

読書や楽器演奏、書道といった趣味の時間、そして誰かとのおしゃべり。そうした心から楽しいと感じられる時間は、脳をいきいきと働かせる最高のエネルギーになります。

ぜひあなたらしい「心から楽しめる時間」を見つけて、すこやかな毎日を育んでいってくださいね。

参 考 資 料