みなさんは、骨格筋が身体を動かすだけでなく、さまざまな生理活性物質を分泌する「分泌器官」としての働きをもっていることをご存じでしょうか。
筋肉から分泌される物質の一つにマイオカインがあり、筋肉自身や周囲の組織に作用するほか、血流によって全身に運ばれ、離れた臓器にも作用します。
運動は健康に良いといわれますが、これを説明する重要な鍵の一つとして注目されています。
そこで本記事では、マイオカインとはどのような物質で、身体にどのような影響を及ぼすのかについて解説します。

この記事でわかること
- マイオカインって何?
- どのような作用がある?
- 増やすことはできる?
この記事を読んでマイオカインについて理解できれば、健康になるためになぜ運動が必要なのかが明確になります。
日々の健康づくりのモチベーションが上がること間違いなしです!
後半ではどのような運動がマイオカイン分泌によいかも紹介していますので、ぜひ最後までご覧くださいね。
骨格筋から分泌されるマイオカインとは
長い間、骨格筋は分泌器官であるとは考えられていませんでした。
しかし2000年に、収縮している骨格筋がインターロイキン-6(IL-6)を血中に放出していることが発見され、その後の研究で、筋肉から分泌されたIL-6が他の臓器にも作用することが明らかになりました。
こうして、骨格筋が「分泌器官」として働くことがわかってきたのです。
2003年には、IL-6など筋肉から分泌される生理活性のある物質をマイオカイン(語源はギリシャ語の「myo:筋肉」と「kine:作動物質」)という名称が提唱され、次々と新しい物質が発見されています。
マイオカインは「骨格筋から分泌され、筋自身やその他の器官に作用する生理活性物質の総称」とされ、一般に「筋ホルモン」とよばれることもあります。
2020年時点で約650種類以上のマイオカインが確認されていますが、その働きがわかっているものはわずか5%といわれています。(※1)

マイオカインの研究が盛んに行われていますが、まだ解明されていない働きが数多く残されている分野なのですね。
マイオカインは全身に働きかける|筋肉と臓器の驚くべき関係
骨格筋から分泌されたマイオカインは、筋肉の中だけで働くわけではありません。血流に乗って全身をめぐり、脳や肝臓、脂肪組織、腸、すい臓、骨、血管など、離れた臓器にも働きかけます。
つまり、筋肉は身体を動かすための器官であると同時に、全身の臓器と情報をやり取りする「分泌器官」でもあるのです。
その広がりを示したのが、下の図です。


こうして見ると、マイオカインが関わる範囲の広さに驚かされますね!
マイオカインにはさまざまな作用が報告されていますが、研究にはヒトだけでなく、動物や細胞を対象としたものも含まれ、ヒトでその働きが十分に明らかになっているものはまだ一部です。
以下では、主にSeverinsenらの論文(※1)をもとに、現在までに報告されている代表的なマイオカインの働きを見ていきましょう。
脳機能との関わり
イリシン、カテプシンBはBDNF(脳由来神経栄養因子)の産生や海馬の神経新生に関わる可能性が研究されています。
BDNFは記憶をつかさどる海馬に作用して、神経細胞の新生を促すことで、記憶や学習などの脳機能を高める働きがあると考えられています。
脂質代謝との関わり
IL-6は代謝を調整する酵素AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を活性化することで、脂肪分解を促進すると考えられています。
また、IL-6やイリシンは、脂肪をため込む白色脂肪細胞をエネルギーを消費しやすい状態へ変化させる「褐色化」を促すことが報告されています。
さらにIL-6には、食欲や脂肪分解への作用を通して、内臓脂肪量を減少させる働きも報告されています。
がん細胞の増殖との関わり
一部のマイオカインには、がん細胞の増殖を抑える可能性が報告されています。
マウスを用いた研究では、運動によってナチュラルキラー(NK)細胞が腫瘍へ集まる過程にIL-6が関与し、腫瘍の増殖を抑える働きの一端を担う可能性が示されています。
また、オンコスタチンM、イリシン、SPARC(Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)などのマイオカインについても、乳がんや大腸がんの増殖を抑制する可能性が、おもに基礎研究から報告されています。
炎症・免疫との関わり
IL-6は、炎症や免疫を調整する働きもあります。
炎症を促すTNFの産生を抑える一方、炎症を抑えるIL-10やIL-1raの産生を促します。
さらに、運動時のコルチゾール分泌を促し、その作用によって運動後も好中球が増加するなど、免疫細胞の働きにも影響を及ぼします。
このように、マイオカインは免疫力を単純に上げるのではなく、炎症や免疫の働きを調整する役割を担っていると考えられています。
糖代謝との関わり
運動中は筋肉で多くのエネルギーが必要になるため、肝臓はグリコーゲンを分解したり、新たにグルコースを作ったりして血液中に送り出します。
IL-6はこの肝臓からのグルコース供給を促し、運動時のエネルギー供給を支える働きをします。
また、IL-6は腸管でGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の分泌を促し、それによってすい臓からのインスリン分泌を高めることが報告されています。
さらに、アンジオジェニン、オステオプロテゲリン、IL-6には、炎症性サイトカインによるダメージから、インスリンを分泌する膵β細胞を保護する作用も報告されています。
血管内皮機能を改善して血行を良くする
動物研究では、FSTL1(フォリスタチン様1)が一酸化窒素合成酵素などを介して血管内皮機能を改善し、血管再生を促すことが報告されています。
骨形成を促進する
IL-6、デコリン、IGF-1(インスリン様増殖因子)、FGF-2(線維芽細胞増殖因子2)は骨形成にプラスの影響を与え骨形成を促進します。
一方、ミオスタチンのように、骨形成を抑制する方向に働くマイオカインも存在します。
筋肉量を増やす
IL-6、LIF(白血病阻害因子)は筋肉自体にも働きかけ、筋肉細胞の増殖を促して筋肉量を増やす働きがあります。
IL-15にはタンパク質の合成を促す作用があり、筋肉量の増加に関わるとされています。(※2)
一方、ミオスタチンは筋肉の形成に対してもマイナスに働きます。

マイオカインは、身体にとって良い働きをするものばかりではありません。運動しないと分泌が増え、筋肉の合成を抑えるなど、いわば悪玉として働くマイオカインもあるのですね。(※3)
加齢に伴う皮膚との関わり
持久的な運動によって、加齢に伴う皮膚構造の変化が改善することが、ヒトを対象とした研究で報告されています。
その仕組みの一つとして注目されているのが、骨格筋から分泌されるIL-15です。
動物研究では、IL-15を投与することで加齢に伴う皮膚構造の変化が改善することが示されており、運動による皮膚への作用の一端をIL-15が担っている可能性が考えられています。
ここまで見てきたように、マイオカインは筋肉だけでなく、脳や脂肪組織、免疫系、肝臓、すい臓、骨、血管、皮膚など全身のさまざまな臓器や組織に働きかけることがわかってきました。
では、こうしたマイオカインの働きは、私たちの健康とどのようにつながっているのでしょうか。
厚生労働省の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』では、身体を動かすことで骨格筋からのマイオカインの分泌が増え、それが健康にどのようにつながっていくかを、次の図のように示しています。

引用元:厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』図1「身体活動による疾患等の発症予防・改善のメカニズム」(※4)
※図が小さく見づらい場合は、厚生労働省の資料で拡大してご覧いただけます。
この図では、身体活動によって骨格筋からのマイオカインの分泌が増えると、慢性炎症を抑えるほか、糖の取り込みや代謝を高める方向に働くことが示されています。
こうした変化は、2型糖尿病をはじめとするさまざまな疾患の発症予防や改善につながる仕組みの一つと考えられています。

運動により、私たちは無意識のうちにマイオカインの恩恵もいただいていることになります。
では、意識してマイオカインを増やすことはできるのでしょうか。
マイオカインを健康づくりに生かすポイント
個々のマイオカインのメカニズムについては基礎研究により徐々に解明されつつありますが、マイオカインをどのように健康に活かせるかなど応用研究はまさにこれからといった状況で情報もあまりありません。
そこでここからは、長年筋肉の研究に携わる青井渉氏の著書「筋ホルモン マイオカインの威力」の内容を中心に現時点でわかっている情報を整理しました。(※5)
2017年より京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授。運動生理学・運動栄養学が専門。氏のグループは2013年、新規マイオカイン「SPARC」が大腸がんを抑制することを発見。
マイオカインを分泌させるために、必ずしも激しい運動をする必要はありません。代表的なマイオカインであるIL-6は、膝を伸ばすような一部の筋肉を使った運動でも分泌されることが確認されています。(※6)
では、マイオカインの働きを健康づくりに生かすには、どのような点を意識すればよいのでしょうか。ここからは、青井氏の著書の内容を中心に見ていきましょう。
運動を習慣化する
マイオカインには一度の運動で一時的に多く分泌されるものもありますが、運動を習慣にすることで分泌が増えてくるマイオカインもあります。
また、運動不足で増えてくる悪玉マイオカインもあるため、運動は習慣として行い、無理のない範囲でとにかく継続することが重要です。
有酸素運動と筋トレ両方を行う
有酸素運動と筋トレでは、どちらが多く分泌されるか量の問題というよりは多く分泌されるマイオカインの種類が異なります。
- 有酸素運動
ミトコンドリアの増加に伴い代謝が改善されて脂肪を燃焼するようなマイオカイン - 筋トレ
筋肉や骨を太くするようなマイオカイン
筋トレで太くなった筋肉で有酸素運動をするとさらに多くのマイオカインが分泌されるため、両方の運動をすることで相乗効果が望めます。
有酸素運動に関しては、ただ歩くだけでなく速歩きなど少しだけ身体活動のレベルを上げた方がマイオカインの分泌量が増えると言われています。
筋トレでは、大きな太ももの筋肉を使うスクワットが効果的です。
大きな筋肉を動かすことはより多くのマイオカインの分泌につながります。
日本統合医療学会のセルフケア資料では、ウォーキングの前に10回のスクワットを3セット行う方法も紹介されています。(※7)
ただし、「マイオカインをたくさん分泌させよう」と、無理に激しい運動をする必要はありません。
長時間の激しい運動の後には、一時的に免疫機能が低下して感染症にかかりやすくなるという「オープンウィンドウ説」もあります。(※8)
この説については現在も議論があり、運動後にみられる免疫細胞の変化を、そのまま免疫機能の低下とみなすことには異論もあります。
いずれにしても、「きつい運動ほどマイオカインが多く出て、身体によい」という単純なものではありません。
一般の方の健康づくりには、速歩きや軽いジョギングなど、無理なく続けられる適度な有酸素運動がすすめられます。

有酸素運動と筋トレの両方を、自分の体力に合わせて無理なく継続することが大切です。
腸内環境を整える
腸には、有害な物質などが体内に入り込むのを防ぐバリア機能があります。
しかし、ストレスや食生活の乱れなどによって腸内環境が悪化すると、このバリア機能が低下して腸管透過性が高まり、本来は通しにくい物質まで体内に入りやすくなることがあります。こうした状態はリーキーガットと呼ばれています。
実際にマウスを用いた研究では、腸管透過性が高まった状態で、骨格筋の糖代謝やミトコンドリア機能が低下することが報告されています。(※9)
このように、骨格筋は腸内環境の影響を受けますが、一方通行の関係ではありません。
腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸などが骨格筋に影響を与える一方、骨格筋から分泌されるマイオカインも腸に影響を与えるなど、両者が互いに作用し合う「筋腸相関」が注目されています。
高脂肪食や高糖質食に偏った食生活や、食品添加物の過剰摂取はリーキーガットのリスクを高めると考えられています。
反対に、食物繊維や発酵食品を意識して摂るなど、腸内環境を良好に保つことは、筋肉と腸の良好な関係を保つうえでも大切です。

マイオカインの働きを考えるうえでも、運動だけに目を向けるのではなく、筋肉と互いに影響し合う腸内環境を良好に保つことも、大切な視点の一つといえるでしょう。
マイオカインを活かす食品
マイオカインの働きを食事からサポートする可能性についても、研究が進められています。
PGC-1αは、エネルギー代謝やミトコンドリアの合成を調整する重要な因子で、運動習慣によって骨格筋で増えることが知られています。また、イリシンなど、いくつかのマイオカインの分泌を促進する働きも明らかになっています。
※PGC1α(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α)とは、「転写共役因子」と呼ばれ、さまざまな遺伝子の転写を調節する物質です。
青井氏の研究対象であるアスタキサンチンは、強力な抗酸化作用を持ち、PGC-1αを介してマイオカインの産生や代謝機能などに影響を与える可能性が研究されています。
青井氏はこうした研究結果をもとに、アスタキサンチンやアントシアニン、レスベラトロール、ケルセチン、カテキンなどの食品成分を紹介しています。

アスタキサンチンは鮭やエビ、カニなどの赤い魚介類に多く、アントシアニンは赤ワインのほか、ブルーベリーや紫キャベツなどの赤紫色の食品に含まれています。
レスベラトロールは、赤ワインやブドウの果皮、ピーナッツの薄皮などに、ケルセチンは玉ねぎやリンゴに、カテキンは緑茶などに多く含まれています。
食品とマイオカインとの関係を示す研究は、ほかにもあります。
たとえば、筋トレをすると増えるIGF-1は、乳酸菌発酵乳や大豆に含まれるイソフラボンの摂取でも増えることが報告されています。
このマイオカインは、骨や筋肉など、さまざまな組織の成長に関わる作用があり、皮膚コラーゲン産生や毛髪の成長への応用にも注目されています。
食品成分に関する研究は行われていますが、これらを含む食品を食べればマイオカインが増えるとヒトで十分に確認されているわけではありません。
食品成分はサプリより食事から
健康に良いと聞くと、その食品ばかり食べたり、手軽にサプリメントに頼ったりしたくなるかもしれません。しかし、特定の成分を多く摂れば、その分だけ健康効果が高まるとは限りません。
ある研究では、ビタミンCとEのサプリメントを摂取することで、運動時の骨格筋からのIL-6放出が抑えられたことが報告されています。(※10)
運動の効果を高めるつもりで摂った高用量のサプリメントで、かえって運動によって起こる本来の生理的反応の一部を弱める可能性もあるのです。
もちろん、極端に食事が摂れなかったり、競技レベルのアスリートなどでは、不足する栄養素をサプリメントで補充することが必要な場合もあります。
しかし、一般の方が「運動の効果を高めたい」「マイオカインを増やしたい」などの理由だけで、確かな根拠もなく漠然と高用量のサプリを常用することはおすすめできません。
まずは日々の食事から、さまざまな食品をバランスよく摂ることを基本にしましょう。
まとめ|運動を楽しもう!筋肉は健康維持のパートナー
筋肉は運動器官であるだけでなく、筋ホルモンであるマイオカインを分泌して全身の器官に影響を及ぼします。
マイオカインには、運動によって分泌が増え、身体に良い働きをするものがある一方、運動不足によって分泌が増えるミオスタチンのように、筋肉や骨の成長を抑えるものもあります。
このように、運動習慣の有無によって、マイオカインの分泌や働きにも違いが生まれるのです。
「運動が健康に良い」ことは何となくわかっていた方も、マイオカインの働きを知ることで「運動は健康づくりに欠かせない」ことがしっかりと理解できたことと思います。
運動をさぼりたくなる日もあるかもしれませんが、そんな時はマイオカインが分泌されることを思い出して、ほんの少しでも身体を動かしてみましょう。
あなたは一人ではありません。いつでも筋肉というパートナーが支えてくれているのですから!
- (※1)Severinsen MCK, Pedersen BK. Muscle–Organ Crosstalk: The Emerging Roles of Myokines. Endocrine Reviews. 2020;41(4):594–609.
- (※2)マイオカインによるサテライト細胞の制御機構|基礎老化研究.2016;40(1):27–33.
- (※3)インターネット公開文化講座「私たちの身体と栄養(3)筋肉」|愛知県共済生活協同組合
- (※4)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023|厚生労働省
- (※5)青井渉『筋ホルモン マイオカインの威力―筋肉から分泌される健康物質の正体』河出書房新社, 2025年.
- (※6)Fischer CP. Interleukin-6 in acute exercise and training: What is the biological relevance? Exercise Immunology Review. 2006;12:6–33.
- (※7)「新型コロナウイルス感染拡大の中で、一人一人が自宅で取りくめる統合医療によるセルフケア」Part 1|一般社団法人日本統合医療学会
- (※8)運動によるさまざまな免疫変動と意義|早稲田大学スポーツ科学学術院 鈴木克彦
- (※9)Nishimura Y, Aoi W, Kodani H, Kobayashi Y, Wada S, Kuwahata M, Higashi A. Polysorbate 80-induced leaky gut impairs skeletal muscle metabolism in mice. Physiological Reports. 2020;8(20):e14629.
- (※10)Fischer CP, Hiscock NJ, Penkowa M, Basu S, Vessby B, Kallner A, Sjöberg L-B, Pedersen BK. Supplementation with vitamins C and E inhibits the release of interleukin-6 from contracting human skeletal muscle. The Journal of Physiology. 2004;558(Pt 2):633–645.
