こんにちは、健康マスター・普及認定講師のうりさくらです!

「座りすぎは体に良くない」という話を、みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

「座る」という行為は、仕事や勉強、あるいは食事やテレビ視聴、読書など、私たちが日常を過ごすうえで当たり前に行う生活の一部です。

起きている時間は、横になる以外は「立っているか・座っているか」のどちらかであり、特別に危険なことをしているという実感はありません。

「それなのに、なぜ寿命を縮めるなんて言われるの?」
「そもそも『座りすぎ』って具体的にどういう状態?」

このような疑問を持たれるのも自然なことです。

そこで本記事では、厚生労働省、WHO(世界保健機関)、国内外の医学研究・学術論文をもとに、「座りすぎ」についてわかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • 座りすぎとはどういう状態なのか
  • 座りすぎが身体に及ぼすリスク
  • リスクを減らす方法

「座りすぎ」のどこにリスクが潜んでいるのか、そして危険を回避して健康寿命の延伸へとつなげるにはどうすれば良いのか。医学的なメカニズムを紐解きながら、詳しく見ていきましょう。

ぜひ最後までご覧ください!

データから見える「座りすぎ」の真実

現代の暮らしは、機械化・自動化によって便利になり、座ったままでも家事や仕事がこなせるようになりました。

その結果、「体を動かす時間(身体活動量)」は減り、「座って過ごす時間」が格段に長くなっています。

人はどのくらい座っているか

「座りすぎ」による影響は、いままさに世界的な関心を集めており、各国で活発な研究が行われています。

生活様式の変化に伴い、身体活動量や座っている時間がどのように変化したのか見てみましょう。

出典:東京都北区健康づくり『「座りすぎ」ていませんか』(令和6年度)より引用(※1)
(原典:Ng SW, Popkin BM. Obesity Reviews. 2012.)

上記は、イギリスの成人における「週あたりの身体活動量と座位時間(2005年以降は推計値)」を示したグラフです。

グラフを見ると、仕事や家事に伴う身体活動量は長期的に減少し、その分が座って過ごす時間に置き換わり増加傾向にあることが分かります。

グラフ中の座位行動とは、「座ったり寝転んだりした状態で行う、エネルギー消費が1.5メッツ以下のすべての覚醒時の行動」を指します。

メッツとは

安静にして座っている状態のエネルギー消費を「1メッツ」とし、その何倍のエネルギーを消費するかで運動の強度や身体活動の強度を表した指標です。

座位行動のなかには、食事や勉強、デスクワーク、テレビ視聴、ゲーム、スマホ操作、読書など、私たちが日常的に行うさまざまな行動が含まれます。

そして驚くことに、世界20カ国を対象とした調査では、日本は座位時間が最も長い国の一つでした。

出典:厚生労働省「座位行動パンフレット」より引用(※2)
(原典:Bauman A et al. American Journal of Preventive Medicine. 2011.)

平日の座位時間の中央値は世界全体で約5時間であるである一方、日本は約7時間と最長クラスでした。

日本人の状況をもう少し詳しく見てみましょう。

出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」より引用(※3)
(原データ:厚生労働省「平成25年国民健康・栄養調査」)

このグラフが示す通り、1日に8~10時間未満と10時間以上を合わせた割合は、男性で38%、女性で33%に達することが分かります。

つまり、男女とも約3人に1人が1日に8時間以上座っていることになるのです。

具体的に「何時間以上からが座りすぎか」という明確な基準については、まだ研究データが十分ではないため示されていません。

しかし、日本人は座位時間が長い傾向にあり、健康への影響が危惧されています。

座りすぎのリスク|体への影響は?

では、長時間座り続けることは、私たちの身体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

国内外の研究では、座位時間が長い人ほど総死亡リスクが高くなることが報告されています。

その代表的な研究として、オーストラリアで成人男女約22万人を対象に行われた大規模な追跡調査をご紹介します。

出典:厚生労働省「座位行動パンフレット」より引用(※2)
(原典:Van der Ploeg HP, et al. Archives of Internal Medicine. 2012.)

身体活動量などの影響を考慮した解析でも、1日に11時間以上座っている人は、4時間未満の人に比べて総死亡リスクが40%高いという結果でした。

つまり、「ただ座っているだけ」と思える長時間の座りすぎが、実は寿命にも関わる健康リスクになり得るのです。

座位行動の代表例である「テレビ視聴」に関しても、注目すべき研究報告があります。

アメリカの女性看護師を対象に行われた6年間の追跡調査では、テレビ視聴時間の長い人ほど、2型糖尿病の発症リスクが高いことが報告されています。

出典:厚生労働省「座位行動パンフレット」より引用(※2)
(原典:Hu FB, et al. JAMA. 2003.
)

この研究では、1週間に40時間を超えてテレビを視聴していた人は、週1時間以下の人と比べて、2型糖尿病の発症リスクが約1.7倍でした。

2020年に世界保健機関(WHO)が公表した『身体活動・座位行動ガイドライン』では、座りすぎによる健康への影響について次のように示されています。(※4)

成人では、座りすぎは、総死亡率や心血管系疾患、がんによる死亡率の上昇、心血管系疾患やがん、2型糖尿病の発症の増加といった悪影響を及ぼす。
引用元:WHO身体活動・座位行動ガイドライン (日本語版)

このように、座りすぎは総死亡率や心血管疾患、がん、2型糖尿病などのリスクを高めることが、多くの研究結果に加え、WHOのガイドラインでも示されています。

「座る」という行為自体は、休息の一つであり、危険な行動という印象はあまりありません。それなのになぜ長時間座っているだけで、これほどさまざまな病気のリスクが高まるのでしょうか。

そのカギを握っているのが、筋肉や血管で起こる身体の変化です。

座りすぎが健康に影響を与えるメカニズム

長時間座っていると、私たちの身体にはどのような変化が起きるのでしょうか。

そのカギを握っているのが、日常の立位や歩行で大きな役割を果たす「脚の筋肉」です。

歩いたり立ち上がったりすると脚の筋肉は活発に働きますが、座っている間は筋肉の活動が著しく低下します。

歩いている時と座っている時では、脚の筋肉の働きにどのような違いがあるか、筋電図で見てみましょう。

出典:東京都北区健康づくり『「座りすぎ」ていませんか』(令和元年度)より引用(※5)
(原典:Hamilton MT, et al. Diabetes. 2007.)

筋電図を見ると、座っている間は脚の筋肉の電気活動がほとんど認められず、筋肉の収縮が極めて少ない状態であることが分かります。

脚の筋肉を長時間使わない状態が続くと、血流や糖・脂質の代謝に影響が及び、身体全体の機能低下につながると考えられています。

現在、その主なメカニズムとして次の2つが考えられています。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

血流が滞り、心血管疾患のリスクが高まる

ふくらはぎの筋肉は、血液を心臓へと押し戻すポンプの役割を果たしていることから「第2の心臓」と呼ばれています。

歩くなどしてふくらはぎの筋肉が収縮・弛緩を繰り返して静脈が圧迫されることで、血液が心臓へと送り戻されるのです。

しかし、座りっぱなしでふくらはぎを動かさないでいると、脚に血液が滞留しやすくなります。

特に、長時間同じ姿勢を続けて脚を動かさない状態では、脚の静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」のリスクが高まり、血栓が肺に移動すると肺血栓塞栓症、いわゆるエコノミークラス症候群につながることがあります。(※6)

また脚への血流が減少すると、血管の内皮機能(柔軟性など)が低下したり血液が固まりやすくなったりして、動脈硬化が進行して心筋梗塞や狭心症といった心血管疾患のリスクが高まると考えられています。(※5)

代謝機能が低下し、代謝性疾患のリスクが高まる

身体の代謝機能にも、筋肉の動きが深く関わっています。

歩いたり階段を上ったりすると、筋肉は血液中のブドウ糖を取り込み、エネルギーとして利用します。

その働きを担っているのが「GLUT4(グルコース輸送体4)」というタンパク質です。

筋肉が収縮すると、GLUT4は筋肉細胞の表面へ移動し、血液中のブドウ糖を筋肉細胞へ取り込み、エネルギーとして利用します。

長時間座って筋肉を動かさない状態が続くと、この働きが低下してブドウ糖が代謝されにくくなり、血糖値が上がりやすくなると考えられています。

また、筋肉を動かすと、「リポ蛋白リパーゼ」という酵素も活性化されます。

この酵素は、血液中の中性脂肪を分解し、筋肉でエネルギーとして利用しやすくする働きがあります。

ところが、座ったままで脚の筋肉を使わない時間が長くなると、この酵素の働きも低下し、中性脂肪が分解されにくくなります。(※3)

こうしたGLUT4やリポ蛋白リパーゼの働きの低下は、座りすぎによる健康への影響を説明するメカニズムの一つと考えられています。

「GLUT4」や「リポ蛋白リパーゼ」と難しい名前が続きましたが、「筋肉を動かすと、糖や脂肪をエネルギーとして利用しやすくなる仕組み」とイメージすると、分かりやすいかもしれません。

このように、脚の筋肉を動かさない状態が長く続くと、糖や脂質の代謝機能が低下し、2型糖尿病や脂質異常症などの代謝性疾患のリスクが高まると考えられています。

なお、乳がんなど一部のがんにおいても、座位時間が長くなるほど発症リスクが高まることが報告されていますが、がんとの直接的なメカニズムについては、まだ解明の途上にあります。(※7)

これまで説明した一連の流れをまとめると、次のようになります。

出典:東京都北区健康づくり『「座りすぎ」ていませんか』(平成30年度)より引用(※8)
(参考文献:Dempsey PC et al. Diabetologia. 2017、Carter S et al. Exercise and Sport Sciences Reviews. 2017)

座りすぎが危険なのは、日常の立位や歩行を支える「脚の筋肉」の活動が著しく低下し、血流の悪化や糖・脂質の代謝低下が同時に起こるためと考えられています。

では、こうしたリスクを減らすためには、日常生活の中でどのような工夫ができるのでしょうか。

座りすぎのリスクを改善する方法とは?

厚生労働省が公表した『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』では、座る時間を減らすことに加え、日頃から身体活動量を増やすことが健康づくりに重要であると示されています。

大切なのは、「座らないこと」だけではありません。

身体を動かす時間を増やすことと、座りっぱなしを減らすこと、この2つを意識することです。

まずは、厚生労働省が示す「身体活動」と「座位行動」の推奨事項を見てみましょう。

出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」より引用(※3)

(※歩行またはそれと同等以上の強度(3メッツ以上)の身体活動は、中強度以上に分類されます。)

この図からも分かるように、厚生労働省は「運動をすること」だけでなく、「普段から身体を動かすこと」と「座りっぱなしを減らすこと」の両方を健康づくりの柱としています。

身体活動量の推奨量は、歩行またはそれと同等以上の強度(3メッツ以上)の身体活動として、成人では1日60分以上(約8,000歩以上に相当)、高齢者では1日40分以上(約6,000歩以上に相当)です。

さらに筋力トレーニングを週2~3日行うことも推奨されています。

同ガイドラインでは、1日60分以上の中強度以上の身体活動を行うことで、座りすぎによる死亡リスクを減らすことが期待できるとしています。

まずは意識して歩く機会を増やすなど、目標に向けた取り組みが大切です。

また、「座位行動(座りっぱなし)」に関しては、以下のような推奨事項を掲げています。

座位行動に関する推奨事項

一方、研究では、長時間座り続ける場合は、できるだけ頻繁に(例えば30分ごとを目安に)立ち上がったり姿勢を変えたりして、座りっぱなしを中断することが、心血管疾患や代謝性疾患のリスク低下には重要であることも示されています。

具体的には、以下のような小さな工夫から始めるのがおすすめです。

今日からできる工夫

立ち上がることが難しい場面では、座ったままでもできる運動があります。

厚生労働省では、エコノミークラス症候群の予防策として、こまめな水分補給に加え、座ったままでもできる「かかとの上げ下ろし運動」や「軽めのストレッチ」を勧めています。

出典:厚生労働省「エコノミークラス症候群予防のために」より引用(※6)

仕事中や移動中など、立ち上がれない場面でも取り入れやすい運動ですね。

座りすぎリスクを抑えるためには、「普段の身体活動量を増やすこと」と「座る時間をこまめ中断して筋肉を動かすこと」が効果的です。

立ち上がることが難しい方も、「少しでも身体を動かす」「じっとしている時間を減らす」という考え方は変わりません。できる範囲で身体を動かすことが、健康維持につながります。

ご自身の生活や身体の状態に合わせて、無理なく続けられる工夫を取り入れてみてください。

まとめ|「座りすぎ」は寿命に関わる健康リスク

本記事では、「座りすぎ」が健康に及ぼす影響について、研究データをもとに見てきました。

多くの研究により、座位時間が長い人ほど総死亡リスクやさまざまな病気のリスクが高まることが報告されています。

便利で快適な現代社会だからこそ、無意識のうちに座っている時間は長くなりがちです。

こうした日々の小さな積み重ねが、血流や代謝を保ち、病気のリスクを減らすことにつながります。

本記事が、「座りすぎ」のリスクを見直すきっかけになれば幸いです。

今日からできる小さな一歩を積み重ねながら、いつまでも自分らしく過ごせる健康寿命の延伸につなげていきましょう。

参 考 資 料